美味しい静岡・いっぴんコラム
2008年の北海道洞爺湖サミットでの晩餐会の乾杯用の酒に、静岡県の清酒が使われ、静岡地酒が一躍、脚光をあびることとなりました。「どうして静岡のお酒なの」といぶかる人も多いと思います。
東京と名古屋の中間に位置する交通至便で、富士山、駿河湾、伊豆、南アルプスなどの自然に恵まれた静岡県は、温暖の地であり、暮らしやすさにおいて日本トップクラスといわれる地域です。
しかし、お酒に関していえば、灘や伏見、新潟などのような「酒処」というイメージからは程遠いと言えるかもしれません。
自然豊かな静岡県は、名水の宝庫でもあります。富士川、安倍川、大井川、天竜川といった一級河川が流れ、富士山からの雪解け水も地層の中でろ過された状態で、豊富に湧き出てきます。
このような豊かな水源に恵まれた静岡県には、古くより、西部地域から東部・伊豆地域にいたるまで、多くの酒蔵があります。静岡県中部、大井川流域の志太地区にも、酒蔵が数多く点在し、「志太杜氏」という酒造り職人集団が活躍しました。
昭和30年当時、75社もあった酒蔵も、時代の変遷により、多くの蔵が廃業し、現在では31社に減ってしまいました。
酒処のイメージが弱い静岡の酒が活性化するには、量ではなく、質で勝負するしかない・・・。吟醸酒や純米酒などの特定名称酒といわれる高級酒の製造を手がけ、いち早く高品質の酒造りに特化、量より質という発想の転換を図りました。
蔵と杜氏の「技能」、そして技術支援をする研究指導機関(現静岡県工業技術研究所)の「技術」が融合し、やがて、まったく新しい、洗練された味と香りが特徴の「静岡型吟醸酒」が生まれました。そして昭和61年の全国新酒鑑評会では、静岡県から出品された21点のうち、金賞10、銀賞7、入賞率80.9%(全国一)を記録したのです。静岡のこの快挙に全国の酒造家や研究機関は驚愕しました。これを機に、各県独自の酵母開発と吟醸酒造りが活性化し、日本酒の新たな歴史が始まったのです。
静岡県の杜氏の出身地は、南部、能登、越後と多岐にわたり、杜氏の世界ではいつしか「静岡で杜氏ができれば一人前」といわれるように、それだけハイレベルな吟醸酒造りが確立されたのです。
酒の愛好家の間にも徐々に「静岡県=吟醸酒の名産地」の認識が広まり、情報感度の高い東京や、NYの高級料理店では、静岡の銘柄が「入手しにくいプレミアム酒」として、もてはやされるようになりました。
2002年に日本経済新聞が専門家・愛好家にアンケートをとった日本酒ランキングでは、ベスト10の中に、静岡県の3銘柄がランクイン。
人気漫画、料理専門誌、グルメ情報誌などでも、静岡県の銘柄は特集記事のフロントページを飾っています。
一方で、地元静岡県で消費される日本酒のうち、静岡産が占めるシェアは、決して高くはありません。もともと生産量が少ないうえに、評価の高い銘柄の多くが東京などの大消費地に流通されるようになったからです。
かつて酒処のイメージが弱かったからこそ、創意工夫と技術革新が進んだともいえる静岡型吟醸酒。高い品質の評価を受けたこのお酒をあなたも飲んでみませんか?